訪問看護の夏の暑さ対策|自転車移動で消耗しないための持ち物と工夫
次の訪問先に着いて、自転車を降りたとたんに汗が噴き出す。目にしみて、インターホンを押す前にタオルで顔をぬぐう。訪問看護の夏は、この繰り返しですよね。
私は訪問看護師として、20年以上を自転車でまわってきました。7月になると、ほかのスタッフと「この夏、乗り切れるかなあ」と話すのが毎年の恒例です。
この記事では、次のことをお伝えします。
- 移動中の暑さから体力を守るための装備
- ファン付きベストと小型ファンの、天気による使い分け
- 訪問先が暑いときの動き方と、利用者さんへの声かけ
訪問看護の夏が危ないのは、熱中症が起きる場所を1日中往復しているから

先に、いちばんお伝えしたいことを書きます。訪問看護師は、熱中症がもっとも起きやすい場所を毎日行き来しています。
総務省消防庁のまとめでは、2025年5月から9月に熱中症で救急搬送された人は10万510人でした。調査が始まって以来、はじめて10万人を超えています。
発生した場所でもっとも多いのは住居で、3万8292人。次が道路で、1万9773人でした。
利用者さんのお宅と、その間の道。訪問看護師が1日中いるのは、まさにこの2か所です。夏の装備はぜいたくではなく仕事道具だと、私は考えています。
直射日光を浴びない工夫が、いちばん体力を守ってくれます

いろいろ試してきて、効果をはっきり感じたのは日光をさえぎることでした。直射日光にさらされていると、消耗の速さがまるで違います。
自転車のときはキャップ型ヘルメット、降りてからは帽子
勤務先の決まりで、自転車に乗るときはヘルメットを着用しています。選んだのは、ひさしのあるキャップ型です。ヘルメットが決まりになる前は、ひさしの大きいサンバイザーを使っていました。
自転車を置いてから少し歩くときや、公園で休憩するときは帽子にかぶり替えます。ヘルメットも帽子も、私にとっては日よけの道具です。
目が悪くてメガネなので、サングラスは使えません。そのぶん、ひさしで目もとに影をつくるようにしています。
夏の折りたたみ傘は、日よけ効果の高いものに替える
折りたたみ傘は季節を問わずバッグに入れています。夏だけは、遮光性能の高いものに入れ替えます。ふつうの晴雨兼用傘より、傘の下がはっきり涼しいです。

冷感アームカバーと、服の下に塗る日焼け止め
腕には冷感のアームカバーを着けています。
PR
晴天の日は、服を着る前に日焼け止めを塗ります。首すじから肩、上腕まで、服で隠れるところにもです。服を着ていても日焼けはするので、ここは省かないようにしています。
日よけは地味な対策です。それでも、夕方の疲れ方がいちばん変わったのがここでした。
ファン付きベストと小型ファンを、天気で使い分けています

ファンは腰のあたりに2つ並んでいます。ここから服の中に風が入ります。

バッテリーは内側のポケットに入れて、コードでつなぎます。

PR
使う前は、自転車を降りるたびに汗で目が痛かった
ファン付きベストを使う前は、訪問先に着いて自転車を降りると、汗が滝のように噴き出していました。目に流れ込んで痛くて、玄関の前で顔をぬぐうところから始まります。
今は、その状態にならずに玄関に立てます。
訪問先では、玄関を開ける前に脱ぎます
ファン付きベストは、訪問先に着いたら玄関を開ける前に脱いでいます。
利用者さんから「それ、やっぱり涼しい?」と聞かれて、「全然違いますよー」と答えたことが何度かあります。暑いのはお互いにわかりきっているので、そのまま話のネタになります。
音は、静かとは言えません。ただ外にいるあいだだけですし、自転車をこいでいるので気になりませんでした。
雨の日は、ベルトに挟む小型ファンに切り替える
雨の日はベストを着ません。レインコートの下で着ぶくれて、動きにくくなるからです。
代わりに使うのが、ベルトに挟める小型のファンです。ポロシャツの中に風を送り込む形で使います。天気で使い分けるようになってから、夏の負担がぐっと減りました。

PR
ネッククーラーは、私には合いませんでした
以前はネッククーラーも使いました。ただ、結露で首まわりが濡れる感じが苦手で、数回でやめています。
合う合わないは、人によって大きく違います。評判のいいものが自分に合わなくても、それは失敗ではないと思っています。
下に着るのは冷感インナー
ベストや制服の下には、ユニクロのエアリズムを着ています。汗をかいたあとの張りつき方が、ふつうの綿のシャツとは違います。
PR
水分は「訪問の終わりに一口、次の訪問の前に一口」と決めています
訪問看護は、飲みたいときに飲める仕事ではありません。ケアの最中に「のどが渇いたので」とは言いにくいですよね。
そこで私は、飲むタイミングをルールにしています。訪問が終わったら一口、移動して次の訪問を始める前に一口です。
渇いたかどうかで判断すると、忙しい日ほど飲み忘れます。決めておくと、考えなくても手が動きます。
凍らせたペットボトルを、もう1本
保冷ボトルとは別に、朝、凍らせたペットボトルを1本持って出ます。移動中は首すじに当てて、首を冷やします。
お昼ごろには溶けて、ちょうど飲みやすい冷水になります。そのころには保冷ボトルは空なので、溶けた水をボトルに移します。こうすると、午後になっても冷たい水が飲めます。

1本で「冷やす」と「飲む」の両方をまかなえます。夏のあいだは、必ず1本入れるようにしています。
顔まわりと虫よけ|小さいけれど、効いているもの
扇子と小型うちわは、使う頻度で選び分ける
顔をあおぐために、扇子か小型のうちわを持っています。どちらもよく使います。
扇子は開くひと手間があります。小型うちわは、扇子より少しかさばります。真夏で使う回数が多い時期はうちわ、そこまでではない時期は扇子にしています。

汗拭きシートは無香料を選びます
顔の汗は冷感タオルでぬぐいます。
汗拭きシートは香りの強い商品が多いのですが、私は無香料にしています。香りが苦手な方もいらっしゃるからです。
冷感シートは、売っている状態のままだとかさばって重くなります。小さいチャック付きの袋に数枚だけ移して持ち歩いています。
虫よけスプレーは、夏の必需品です
朝、靴にワンプッシュしてから出ます。かばんにも、やぶ蚊用のスプレーを入れています。
休憩中や、自転車を降りたり乗ったりしているあいだにも寄ってきます。公園や、街路の手入れをしている場所で立ち止まると、本当にすごい数です。刺されたとき用の薬も、もちろん標準装備です。
おやつは、夏だけナッツにしています
小腹用にかばんへ入れていたおやつが、夏に溶けてしまったことがあります。チョコレートもキャンディも溶けます。それ以来、夏のあいだは溶けないナッツだけにしました。
夏の汗のニオイは、衣類の寿命の問題でもあります
利用者さんのお宅にうかがう仕事なので、ニオイには気をつかいます。汗だけではなく、雨の日のニオイも同じです。
洗っているのにニオイが戻る服は、繊維の側に原因があります。花王の研究では、汗をかいたあとの衣類のニオイの原因菌としてモラクセラ属の細菌が特定されました。タオルの繊維に菌のかたまり(バイオフィルム)ができることも報告されています。
落としきれなかった皮脂が繊維の奥にたまると、洗っても菌が残りやすくなります。ポリエステルは油となじみやすいため、とくに残りやすい素材だといわれます。
毎日のように着ているポリエステルのインナーやTシャツは、1〜2年ほどで「洗ってもニオイが戻る」状態になりました。私はそうなったら買い替えのサインだと考えています。
夏はレインコートも洗います。見た目に汚れていなくても、汗はついているからです。
事務所には着替えを1セット置いています。ただ、使ったことは一度もありません。着替えに戻る時間がないからです。だから「着替える」ではなく「においを出さない」ほうで備えています。
出典:花王「汗をかいた後に衣類から発生するニオイ成分とその原因菌を解明」/花王「タオル繊維に付着する菌のかたまり(バイオフィルム)を発見」
訪問先の部屋が暑いとき、自分と利用者さんをどう守るか

部屋の暑さで、私が気分が悪くなった日のこと
以前、訪問先の部屋が暑くて、気分が悪くなったことがあります。
その日はたまたま同行訪問で、もうひとりいたので何とかなりました。ひとりだったらどうしていただろう、と後から考えました。たぶん、早めに切り上げて退室したと思います。
あの日から、夏の対策は毎年きちんとするようになりました。看護師が倒れてしまったら、その日の訪問はすべて止まってしまいます。
その場でできるのは、換気と扇風機
部屋が暑いと感じたら、まず窓を開けて風を通します。扇風機があれば回します。ケアを始める前に、できることを先にすませます。
「普段いる部屋」が暑いなら、すぐに相談します
大事なのは、その部屋がいつも過ごしている部屋かどうかです。
訪問のときだけ使う部屋が暑いなら、窓を開ければ足ります。普段いる部屋が暑いのなら、話は別です。熱中症の危険があるので、ケアマネジャーさんやご家族に早めに相談します。実際に、そういうケースがありました。
暑さを感じにくい利用者さんに、どう飲んでいただくか

「暑くない」「のどは渇いていない」とおっしゃる利用者さんは、めずらしくありません。
環境省の熱中症環境保健マニュアルでも、高齢の方はのどの渇きや暑さを感じにくくなると説明されています。脱水が進んでも、渇きが起こりにくいのだそうです。
室温が上がっても感じない方を担当したことがあります。暑さを感じないので、飲みませんし、エアコンもつけません。
ケアマネジャーさんと相談して、デイケアを毎日利用していただくようにしました。行けばプログラムのなかでお茶を飲む時間があります。それ以外の時間帯は、ヘルパーさんと私たちが訪問のたびに室温を確認しました。
エアコンのリモコンの置き場所も、ご家族やケアマネジャーさんと相談したうえで変えました。目に入ると消してしまうので、気づきにくい場所に移したのです。ご本人に黙って決めたことではありません。
水分も、訪問のたびに何か飲んでいただくようにしました。「脱水になりますよ」「熱中症が心配です」では、納得していただけません。のどが渇いていないのに脱水と言われても、わからないですよね。
そこで「お腹の調子もよくなりますよ」「カテキンが身体にいいらしいですよ」といった話をしながらお出ししました。効き目を説明したというより、飲む理由を一緒につくった感じです。ゼリーやヨーグルトをおすすめすることもありました。
毎年、ほかのスタッフと「この夏、乗り切れるかなあ」と話していました。ひとりで抱えず、チーム全員で目を配っていたから乗り切れたのだと思います。
「いつもの頭痛じゃないかも」と思ったら、休んでいます
私は頭痛持ちです。だから夏は、いつもの頭痛なのか、熱中症になりかけているのかを気にかけています。
私の場合は、熱中症のときは頭痛に動悸と腹痛がついてきます。そこで見分けているのですが、これはあくまで私の身体の話です。
一般には、めまいや立ちくらみ、大量の汗、頭痛、吐き気、だるさなどが熱中症のサインだとされています。迷ったときは、涼しい場所に移って休むのがいちばんです。
休むのは、コンビニか公共の施設です。図書室のある公民館や区民センターのような建物を見つけて、ロビーのベンチに腰かけます。
少し時間は取られます。それでも、倒れて救急車を呼ぶことになるよりずっとましです。
幸い、休んだせいで次の訪問に遅刻の連絡をしたことは、まだありません。ただそれは、たまたま時間に余裕があったり、ちょうど昼休憩のタイミングだったりしただけです。運が良かったのだと思っています。
まとめ|夏を乗り切るのは、根性ではなく準備です

夏の訪問看護は、気持ちでどうにかなるものではありません。日光をさえぎって、風をつくって、飲むタイミングを決めておく。その積み重ねが、最後の訪問まで動ける体力を残してくれます。
もし今日ひとつだけ増やすなら、朝、凍らせたペットボトルを1本かばんに入れてみてください。首を冷やせて、昼には冷たい水になります。それだけで午後の消耗が変わります。
暑い日にいつもどおり動けなくても、それは身体が正しく反応しているだけです。無理に平気な顔をしなくていいんです。


