急変対応の本|看護師が現場で開いているねじ子の2冊
夜勤中、ナースコールが鳴った瞬間に身体がこわばる。そんな経験はありませんか?
「もし急変だったら、私はちゃんと動けるだろうか」。そう考えはじめると、なかなか眠れない夜もありますよね。
私も長く看護師をしていますが、遭遇したことのないパターンは今でもあります。訪問看護に移ってからは、その不安がもっと具体的になりました。すぐに人を呼べない場所で、ひとりで判断する場面があるからです。
そんなときに支えになったのが、急変対応の本でした。読んでおくと、頭の中に「こう動く」という道筋ができます。備えがあると、こわさは少しやわらぎます。
この記事では、私が繰り返し開いている2冊を紹介します。本の中身だけでなく、在宅の現場でどう役に立ったかまで書きますね。
急変対応の本を選ぶとき、私が大事にしていること
急変対応の本はたくさんあります。どれを選べばいいか迷ってしまいますよね。
私が見ているのは、次の3つです。
- 場面が絵として頭に浮かぶか
- 病院の外でも使える内容か
- 疲れているときでも読めるか
三つ目が意外と大事なんです。夜勤明けの頭に、びっしり文字の詰まったページは入ってきません。読めないまま積んでしまった本が、私にも何冊かあります。
①『ねじ子のヒミツ手技 2nd Lesson』|マンガだから場面ごと記憶に残る

まず紹介したいのが、ねじ子先生のこの1冊です。
看護師なら「ねじ子」の名前を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。森皆ねじ子先生は現役の医師で、医療情報をマンガで解説するシリーズを執筆されています。
専門用語をさらっと読めるようにかみ砕いてあって、しかも内容がちゃんと実践的なのです。「むずかしいことをわかりやすく」という点では、右に出る人がいないと思っています。
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収録されている内容
目次はこうなっています。
- バイタルサイン
- モニタリング
- 心電図
- 道端での心肺蘇生法
- 病院での心肺蘇生法
- ノドに異物がつまった
- 夜の骨折・脱臼
- 動物に咬まれた
- 熱傷
- 耳・鼻の救急
研修で習うような基本から始まります。そのあと、日常ではあまり遭遇しない場面まで広がっていきます。夜間救急でそのまま役に立つ構成です。
とくに印象に残ったのは、動物に咬まれたときのページ
書籍にはこんなことが書いてあります。
動物にガブッとやられた!!発生頻度は犬>猫>人です。
しかし重症度はヤバイ順に猫=人>>犬です。
意外にもかわいいネコちゃんの咬み傷の方が犬よりもずーーっと治りにくいんですな。
引用176ページ
「なんで猫のほうが重症なんだろう?」と思いませんか。
猫の歯は細くて鋭いので、深い刺し傷のような傷になりやすいのです。傷口が狭くて深いため、菌が奥まで入り込みます。しかも猫はパスツレラ菌を持っていることが多く、これが傷に入ると炎症が急速に広がることがあります。
こういう「ちょっと意外な事実」は、読んでいておもしろいんですよね。知識として入ってきやすく、印象にも残ります。
ヘビに咬まれたときに現場でしておくとよいこと。指を切断したとき、切れた指先はあきらめずに探して病院へ持っていくこと。そんな話も解説されています。
日常でまず出会わないようなことも、気軽に勉強しておけます。いつか道端で、危機に見舞われた人に出会うかもしれません。その「いざ」というとき、誰かのお役に立てるかもしれないのです。
訪問看護師として読むと、見え方が変わる
在宅では、利用者さんがひとりでいる時間帯に急変することがあります。ご家族から電話がかかってきて、そのまま駆けつける日もあります。
病院のように、すぐ他のスタッフを呼べるわけではありません。使える器材も限られています。
「道端での心肺蘇生法」の章は、病院の外での対応を想定して書かれています。訪問先で急変に立ち会ったときにも応用できる考え方が詰まっているんです。自宅という環境でどう動くか、頭の中でシミュレーションしながら読みました。
「ノドに異物がつまった」の章も、誤嚥のリスクがある方を担当している人にはぜひ読んでほしいです。ハイムリック法の手順がマンガで描かれているので、身体の動かし方まで想像できます。
②『ねじ子のぐっとくる体のみかた』|急変が起きる前に気づくための1冊
同じ森皆ねじ子先生の本を、もう1冊あげさせてください。
『ねじ子のぐっとくる体のみかた』は、フィジカルアセスメントの本です。急変対応の本ではありません。それでもここで紹介したいのは、備えというものが「起きたあと」だけの話ではないからです。
「なんだかいつもと違う」。訪問先でそう感じたとき、その感覚を確かめる手段を持っているかどうかで、動き出しの速さが変わります。
頸・胸・腹の見かたが、イラスト中心で解説されています。項部硬直の確認方法や、腹部を視診・触診・聴診・打診していく順番。手の置き方まで絵で描いてあるので、読んだその日に試せます。
この本については、別の記事でくわしく書いています。フィジカルアセスメントを実践的に復習|『ねじ子のぐっとくる体のみかた』
訪問看護の現場で、この2冊がどう役に立ったか
ここからは、実際にあった場面の話をさせてください。どれも10年ほど前のできごとで、プライバシーに配慮して細部は変えています。
「のどが痛い」と言われて、スプーンをお借りした日
訪問先で多い訴えのひとつが「のどが痛い」です。
本には口のみかたの章があります。舌圧子をどこに当てるか。扁桃が腫れているとは、どういう状態を指すのか。粘膜が全体的に赤いときは、ウイルス性を疑う。イラストで描かれているので、目の前の状態とそのまま見比べられます。
ただ、訪問看護ステーションでは舌圧子が手元にないことが多いんです。事務所からの持ち出しになるので、その日のカバンに入っていません。
ある日、のどの痛みを訴えた利用者さんがいました。舌が厚めで、口を開けてもらっただけでは奥がよく見えません。「もう少しだけ見せてくださいね」と声をかけて、きれいなスプーンをお借りしました。柄の部分をそっと当てると、扁桃まで確認できました。
道具がそろっていなくても、見かたを知っていれば手はあります。
「お腹が苦しい」の訴えが弱かったとき
腹のみかたの章も、何度も開きました。
ある利用者さんが「お腹が苦しい」とおっしゃいました。嘔吐はなく、その時点では押しても痛みがありません。訴えとしては、決して強くないんです。
ただ、聴診してみると腸の動く音がかなり弱くなっていました。排便はあるのですが、量が少ない。
ここで迷いました。すぐに受診をすすめられる状況ではありません。その方はほぼ寝たきりで、受診にはご家族の協力か救急車が必要だったからです。
私はイレウスの可能性があると考えました。そこでご家族に、今の状態をそのまま伝えました。押しても痛みは出ていません。腸の動きがとても弱くなっています。便は出ていますが、量が少なめです。
そのうえで、こうお願いしました。「もし吐いた、熱が出た、痛いと言った。そのどれかがあれば、看護師に連絡するか受診してください」。
連休の前でした。連休明けに、ご家族から連絡がありました。「吐いたので病院に連れて行きました。イレウスでした。気をつける症状を教えてもらっておいてよかったです」。
触れて、聴いて、言葉にして渡す。それだけで、次に動く人が決まります。
「大丈夫」と言われても、引かなかった日
心疾患のある利用者さんを担当していたときの話です。訪問のたびに心音と肺の雑音、むくみを確認していました。
ある日、デイケアから帰宅されたところへちょうど訪問しました。玄関から部屋へ歩く様子が、いつもよりしんどそうに見えます。
「どこかつらいですか」と聞くと、返ってきたのは「大丈夫」でした。
それでも全身を確認すると、肺の雑音もむくみも、いつもより悪くなっています。ここは引けないと思いました。
介護保険を使っている方でしたので、まずケアマネジャーさんに連絡しました。ご家族への連絡はケアマネジャーさんから、という決まりだったからです。
ところが、こう言われました。「私が言っても納得してもらえないかもしれないので、看護師さんから電話してもらえませんか」。
ご家族は遠方でお仕事をされていました。突然「受診させてください」とは言いにくいですよね。その気持ちは、私にもよくわかります。
仕事の真っ最中であろうご家族に、私から電話をかけました。このときの、そっけない声は今でも覚えています。
それでも伝えました。今すぐ救急車を呼ぶ状態ではありません。ただ、これから変化が来ると思われます。それが何日後かはわかりませんが、明日か、遅くとも明後日には受診してほしいのです。お忙しいのに無理を言っているのは承知しています。
「わかりました」。そうお返事をいただけました。
電話のあと、ケアマネジャーさんと相談しました。その夜の寝る前と、翌朝のトイレや食事のために、ヘルパーさんに入ってもらえるよう手配しました。
週明け、ケアマネジャーさんから連絡がありました。あの翌日、ご家族が受診させてくださったそうです。その夜は、ご家族が利用者さん宅に泊まってくださっていました。
そして、その夜のうちに状態が悪化したのです。そのまま入院になったと聞いています。
すぐに受診してもらえてよかった。ご家族が泊まっていてくれてよかった。そう思いました。
あのとき動けたのは、いつもの状態を身体で知っていたからだと思います。「なんとなく変」を「肺の雑音とむくみが悪化しています」と言葉にできたから、人が動いてくれました。
急変は、ある日突然やってくるように見えます。でも実際には、その前に小さなサインが出ていることがあります。ヒミツ手技が「起きたときにどう動くか」の本なら、体のみかたは「起きる前に気づく」ための本です。
この2冊が向いている人・向いていないかもしれない人
向いている人は、こんな方です。
- 急変の場面が想像できず、こわさが先に立つ方
- 文字だけの参考書が頭に入りにくい方
- 病院の外で働いている方
反対に、向いていないかもしれないのはこんな方です。
- すでに救急の現場に長くいて、体系的な知識がある方
- 疾患ごとの詳しい鑑別を求めている方
この2冊は「深く狭く」ではなく「広く、記憶に残る形で」まとめられています。そこが合うかどうかで、印象は変わると思います。
急変対応の本についてよくある質問
新人でも読めますか?
はい。バイタルサインやモニタリングといった基本から始まるので、無理なく読み進められます。
改訂版と旧版、どちらを買えばいいですか?
改訂版をおすすめします。2nd Lessonでは、道ばたでの心肺蘇生法と病院での心肺蘇生法が改訂されています。ガイドラインは数年ごとに更新されるためです。
1冊で急変対応は身につきますか?
本だけで身につくものではありません。ただ、頭の中に道筋があるかどうかで、動き出しの速さは変わります。
まとめ
急変がこわいのは、真剣に人と向き合っている証拠だと思います。こわさをゼロにする必要はありません。備えを少しずつ足していけば、それでじゅうぶんです。
今日できる小さな一歩は、次の訪問先の玄関をひとつ思い浮かべてみることです。もしそこで急変が起きたら、自分はどこに立つでしょうか。それだけでも、頭の中の道筋は一本できます。
