共感疲労とは?看護師が「優しさで疲れる」本当の理由と5つのサイン
「最近、患者さんに前みたいに心が動かない」
「家に帰っても仕事のことが頭から離れなくて、ずっと疲れている」
もしそうなら、それは「共感疲労」かもしれません。
頑張りが足りないのでも、看護師に向いていないのでもありません。人の苦しみに寄り添う仕事をしている人なら誰にでも起こりうるものとして、世界中で研究されている現象です。
この記事では、これまで内科や外科などを経験し、いまは心の在宅ケアの現場にいる看護師として、研究資料をもとに「共感疲労とは何か」「燃え尽きとどう違うのか」「どんなサインが出るのか」をまとめました。
共感疲労とは?

共感疲労(Compassion Fatigue)とは、苦しんでいる人に寄り添い続けることで、寄り添う側の心と体が消耗してしまう状態のことです。アメリカの心理学者フィグリー(Figley, 1995)が提唱しました。
英語を直訳すると「思いやりの疲れ」。
患者さんの苦しみやつらい体験を、共感しながら受け止め続ける。その積み重ねが、聞いている側の心をすり減らしていきます。
看護師はもちろん、介護職、保育士、カウンセラー、家族の介護をしている人にも起こるといわれています。
バーンアウト(燃え尽き症候群)との違い

よく混同されるのが「バーンアウト」ですが、研究では別のものとして区別されています。
共感疲労……主な原因は患者さんの苦しみへの共感/ある日突然あらわれる/中心にあるのは無力感・罪悪感
バーンアウト……主な原因は忙しさ・職場環境のストレス/じわじわ徐々に進む/中心にあるのは消耗感・やる気の低下
ポイントは進み方の違いです。バーンアウトが長い時間をかけてすり減っていくのに対して、共感疲労は「昨日まで普通だったのに、急に患者さんと関わるのがつらくなった」という形で突然あらわれるのが特徴とされています。
実際には2つが重なって起きることも多く、両方の視点で自分の状態を見ることが大切です。
共感疲労の5つのサイン(セルフチェック)

日本人看護師を対象にした研究(温井ら, 2023)では、共感疲労の特徴として次の5つが挙げられています。当てはまるものがないか、チェックしてみてください。
☐ 罪悪感・無力感……「何もしてあげられなかった」と自分を責め続けている
☐ 体の不調・心の不安定さ……眠れない、食欲がない、涙もろくなった
☐ 共感の変化……患者さんに心が動かなくなった。逆に、感情移入しすぎて苦しい
☐ 深い疲労……休んでも取れない、底のほうから疲れている感じがする
☐ 自尊心の低下……「私は看護師に向いていない」と思うようになった
3つ目の「心が動かなくなる」は、冷たくなったのではなく、心が自分を守るためにシャッターを下ろしている状態です。ここでも自分を責めないでください。
なりやすい状況——私が新人のころの話

研究では、共感疲労のリスクを高める要因として、患者さんの苦痛に長く触れ続けること、倫理的な葛藤、経験の浅さ、そして周囲のサポートの欠如が挙げられています(温井ら, 2023)。
私自身、この「サポートの欠如」の怖さを新人のころに経験しました。
訪問看護を始めたばかりのころ、ある患者さんから、今ならはっきりセクハラに当たる言動を受けていました。
勇気を出して先輩に相談したところ、返ってきたのは「あなたの対応がよくなかったんじゃないの」という言葉でした。
それ以降、私はその患者さんのことを誰にも相談できなくなりました。
つらい訪問を、たったひとりで抱え続けることになったんです。
研究でも、患者さんからの暴力やハラスメントを受けた看護師にとって、周囲のサポートが感情の回復に最も重要だと示されています(庄司・三沢)。
相談して責められる経験は、サポートを失うだけでなく、「もう誰にも話さない」という孤立を生みます。共感疲労は、こうしてひとりで抱え込んだところに育っていきます。
放っておくとどうなるか

研究では、共感疲労を放置した先にあるものとして、ケアの質の低下、人間関係の悪化、心身の症状の悪化、そして離職が挙げられています(温井ら, 2023)。
大学病院の一般病棟で働く看護師を調べた研究では、約70%が平均的またはそれ以上の共感疲労リスクを抱えていました(南山・小松, 2022)。特別な人の問題ではなく、看護師の多くが足を踏み入れている状態だということです。
「まだ働けているから大丈夫」と頑張り続けるほうが、実はリスクが高い。そう考えて、早めにケアを始めてほしいのです。
回復を助けるもの——「おかえり」に救われた話

一方で研究は、共感疲労から守ってくれるものもはっきり示しています。
仲間や上司のサポート、感情を言葉にできる場、十分な休息、そしてケアから得られるやりがい(共感満足)です。
これも、私は身をもって経験しました。
セクハラの件を抱え込んだ職場のあと、次に移った訪問看護の職場では、事務所に戻ると「おかえり」とみんなが声をかけてくれました。
報告書を書きながら、カンファレンスというほど大げさなものではなく、「患者さんがこんなふうに言っていてね」「私はこう答えたんだけど」という話を気軽にできる雰囲気がありました。
訪問先で受け止めてきた重たいものを、事務所でいったん降ろして、気持ちが軽くなってから家に帰る。
同じ訪問看護なのに、前の職場との違いに驚きました。私を守ってくれていたのは、特別な制度ではなく、この何気ないおしゃべりだったのだと思います。
研究でも、感情を表に出して共有できる場があることは、共感疲労への大切な保護要因とされています。もし今の職場にそういう場がまったくないなら、それはあなたの頑張りでは埋められない環境の問題かもしれません。
まとめ:名前を知ることが、回復の一歩目

・共感疲労は、寄り添う仕事をする人なら誰にでも起こりうる、名前のついた現象です
・バーンアウトと違い、「ある日突然」やってくるのが特徴です
・5つのサインに早めに気づくことが大切です
・ひとりで抱え込む環境がリスクを高め、気軽に話せる場が回復を助けます
「共感しすぎる私が悪い」と思っていた方には、こちらの記事もぜひ読んでほしいです。研究でわかった、意外な本当の原因の話です。

自分でできる具体的なセルフケアの方法は、こちらの記事にまとめています。

参考文献
・Figley, C.R.(1995)Compassion Fatigue: Coping with Secondary Traumatic Stress Disorder in Those Who Treat the Traumatized.
・温井由美ら(2023)「看護師における共感疲労の概念分析」日本看護科学会誌 Vol.43
・庄司貞之・三沢優貴「患者から受けた暴力に対する精神科看護師の感情に関する考察」第48回日本精神科看護学術集会
・南山愛子・小松浩子(2022)「大学病院一般病棟看護師の共感疲労と労働遂行能力の関連」日本看護科学会誌 Vol.42
