ナースキャップはなぜ消えた?1980年代の戴帽式と現在の看護学生を調べてみた
「ナースキャップ」と聞いて、若い看護師さんは何を思い浮かべるでしょう。昔のドラマに出てくる看護師でしょうか。それとも、戴帽式の写真でしょうか。
私にとってナースキャップは、学生時代だけの記念品ではありません。看護師になってからも、実際に仕事で使っていた身近なものでした。
けれど、今の臨床現場ではほとんど見かけません。では、ナースキャップを戴く戴帽式もなくなったのでしょうか。気になって、現在の看護学校や看護学部の公式情報を調べました。
ナースキャップは看護師の象徴だった

ナースキャップは、長いあいだ看護職を示す印として使われてきました。白衣とキャップを見れば、患者さんにも看護職だとひと目で伝わります。
私が看護学生だった1980年代は、まだ「看護婦」という名称が使われていた時代です。当時の私にとっても、ナースキャップは「看護婦の象徴」でした。
戴帽式でナースキャップを戴くことは、看護の道へ進む節目でした。まだ一人前ではない学生が、これから患者さんの前に立つのだと意識する機会でもありました。
1980年代、私が経験した戴帽式
私の戴帽式は、いきなり本番を迎えたわけではありません。式全体の流れを、事前にみんなで練習しました。ナイチンゲール誓詞も暗唱しています。
今でもよく覚えているのが、ろうそくの火を消す場面です。誓詞を唱え終わるのと同時に、同級生全員で小さなろうそくの火を指ですっと消しました。
使ったのは、普通の小さなろうそくです。指で消しても、特に熱くはありませんでした。やけどもしませんでした。
ただ、全員で同じタイミングに合わせる必要があります。そこまで含めて練習したので、本番はけっこう緊張しました。
ナイチンゲール誓詞を唱え、ろうそくの火を消し、ナースキャップを戴く。当時の私は、キャップを戴けることが素直にうれしかったのです。
厳かな戴帽式が終わると、待っていたのは怒涛の実習でした。キャップをもらった喜びに、いつまでも浸っている余裕はありませんでした。
なぜナースキャップは消えたのか

ナースキャップが臨床現場から消えた理由は、一つではありません。見直されたのは、現場での動きやすさ、安全性、衛生面などです。
1994年に発表された「ナースキャップをはずす試み」では、活動の邪魔になること、角があって危険なこと、点滴ラインへ引っ掛かることが問題として挙げられました。
2006年の研究では、ナースキャップを洗っていない期間と、付着する微生物数との関係が調べられています。細菌汚染が確認され、洗濯や管理の難しさも見直す材料になりました。
ただし、ナースキャップそのものが院内感染を引き起こしたと、因果関係まで示されたわけではありません。「不衛生だから廃止された」とだけ説明するのは正確ではないでしょう。
ほかにも、費用や実用性、患者さんとの関係に与える印象、女性だけが着用することへの疑問など、さまざまな論点がありました。
私自身も、臨床で働きながら、ナースキャップが徐々に廃止されていく時代を経験しました。象徴として親しんだ一方で、なくなってみれば、動く仕事にはそのほうが自然だったとも感じます。
ところが現在も戴帽式は残っている
臨床現場でナースキャップを見なくなっても、戴帽式まで一斉になくなったわけではありません。2026年9月に学校公式サイトを確認すると、現在もキャップを用いる学校がありました。
- 久留米大学医学部看護学科は、2025年10月の戴帽式で、学生一人ひとりにナースキャップを授けたと伝えています。
- 昭和医科大学附属看護専門学校は、2026年5月の戴帽式で2年生137人へナースキャップを授与しました。
- 東京新宿メディカルセンター附属看護専門学校も、2025年12月にナースキャップを用いた戴帽式を行っています。
男子学生にはキャップではなく、肩へエンブレムを付ける学校もあります。同じ戴帽式でも、その形は学校によって異なります。
「戴帽式」から「宣誓式」へ

キャップを中心にしない式へ変わった学校もあります。大切なのは、「戴帽式を廃止した」と一括りにしないことです。式の名称や内容は、それぞれ違います。
新見公立大学は、従来の戴帽式に代わる式として、2025年度から「看護学実習に向けての宣誓式」を行っています。学生全員が自分たちで考えた誓いの言葉を述べます。
北里大学看護専門学校は、2023年度から「戴帽の会」の名称を「宣誓式」へ変更しました。公式情報から確認できるのは名称変更であり、キャップの不使用までは断定できません。
愛知医科大学看護学部では、2025年6月にキャンドルセレモニーを実施しました。ナイチンゲール像の灯を受け継ぎ、一人ひとりが「私の目指す看護師像」を発表しています。
キャップの代わりにリボンを受け継ぐ学校も
諏訪中央病院看護専門学校の公式記事には、式の変化が詳しく残されています。
同校では、学生自治会が中心となって戴帽式を始めました。その後、ナースキャップの廃止を受け、先輩たちが思いをリボンに込めて後輩へ渡す形に変わりました。現在は、ナイチンゲールの灯を受け取るキャンドルセレモニーとして続いています。
キャップ、リボン、キャンドル。形は違っても、先輩から後輩へ看護への思いを手渡す意味は残っています。
戴帽式への疑問は昔からあった
戴帽式の意味を問い直す議論は、ナースキャップが廃止され始めた時期より前からありました。
1967年の「看護における戴帽の変遷とその背景」では、学制改革や単位履修制のもとで、従来の戴帽式がどのような意味を持つのかが問い直されています。
1970年の「戴帽式の現状と将来への展望」でも、教育制度が変わるなかで、以前と同じ式を続けるべきか検討した経緯が記されています。
つまり、戴帽式は昔から変わらない伝統だったわけではありません。教育のあり方に合わせて、その意味を考え直しながら続いてきた行事でした。
消えたのは「帽子」であって「節目」ではなかった

私は、現在の看護学生にもナースキャップを復活させるべきだと考えているわけではありません。医療現場で使わないものを、式のためだけに残す必要があるのか。そう考える人がいるのも自然です。
それでも、患者さんの前に立つ前に一度立ち止まる時間には、意味があると思います。自分はどんな看護をしたいのか。何を大切にして患者さんと向き合うのか。実習が始まる前に考える機会です。
1980年代の私は、同級生とタイミングを合わせ、ろうそくの火を指で消しました。ナースキャップを戴いて喜んだあと、怒涛の実習へ進みました。
今の学生は、リボンを受け取ったり、自分の目指す看護師像を言葉にしたりしています。ナースキャップはなくなっても、看護を始める前に自分の思いを確かめる時間は、形を変えて受け継がれているのだと思います。
参考資料
- 鈴木妙子ほか「ナースキャップをはずす試み」『看護学雑誌』58巻1号、1994年
- Shintani H, et al. Relationship between the Contamination of the Nurse’s Caps and Their Period of Use in Terms of Microorganism Numbers. 2006.
- 嶌田理佳・上野範子「ナースキャップの表現する看護婦像とフェミニズム」2002年
- 仙田洋子「看護における戴帽の変遷とその背景」『看護教育』8巻10号、1967年
- 仙田洋子「戴帽式の現状と将来への展望」『看護教育』11巻12号、1970年
