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ナースキャップはなぜ消えた?1980年代の戴帽式と現在の看護学生を調べてみた

1980年代の戴帽式で、ナースキャップを着けてろうそくを持つ看護学生たちのイラスト
イタドリ
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「ナースキャップ」と聞いて、若い看護師さんは何を思い浮かべるでしょう。昔のドラマに出てくる看護師でしょうか。それとも、戴帽式の写真でしょうか。

私にとってナースキャップは、学生時代だけの記念品ではありません。看護師になってからも、実際に仕事で使っていた身近なものでした。

けれど、今の臨床現場ではほとんど見かけません。では、ナースキャップを戴く戴帽式もなくなったのでしょうか。気になって、現在の看護学校や看護学部の公式情報を調べました。

ナースキャップは看護師の象徴だった

白地に黒いラインが入った折り畳み式のナースキャップ
写真:BrokenSphere / Wikimedia CommonsCC BY-SA 3.0

ナースキャップは、長いあいだ看護職を示す印として使われてきました。白衣とキャップを見れば、患者さんにも看護職だとひと目で伝わります。

私が看護学生だった1980年代は、まだ「看護婦」という名称が使われていた時代です。当時の私にとっても、ナースキャップは「看護婦の象徴」でした。

戴帽式でナースキャップを戴くことは、看護の道へ進む節目でした。まだ一人前ではない学生が、これから患者さんの前に立つのだと意識する機会でもありました。

1980年代、私が経験した戴帽式

私の戴帽式は、いきなり本番を迎えたわけではありません。式全体の流れを、事前にみんなで練習しました。ナイチンゲール誓詞も暗唱しています。

今でもよく覚えているのが、ろうそくの火を消す場面です。誓詞を唱え終わるのと同時に、同級生全員で小さなろうそくの火を指ですっと消しました。

使ったのは、普通の小さなろうそくです。指で消しても、特に熱くはありませんでした。やけどもしませんでした。

ただ、全員で同じタイミングに合わせる必要があります。そこまで含めて練習したので、本番はけっこう緊張しました。

ナイチンゲール誓詞を唱え、ろうそくの火を消し、ナースキャップを戴く。当時の私は、キャップを戴けることが素直にうれしかったのです。

厳かな戴帽式が終わると、待っていたのは怒涛の実習でした。キャップをもらった喜びに、いつまでも浸っている余裕はありませんでした。

なぜナースキャップは消えたのか

感染対策のためマスクを着けるスクラブ姿の医療従事者

ナースキャップが臨床現場から消えた理由は、一つではありません。見直されたのは、現場での動きやすさ、安全性、衛生面などです。

1994年に発表された「ナースキャップをはずす試み」では、活動の邪魔になること、角があって危険なこと、点滴ラインへ引っ掛かることが問題として挙げられました。

2006年の研究では、ナースキャップを洗っていない期間と、付着する微生物数との関係が調べられています。細菌汚染が確認され、洗濯や管理の難しさも見直す材料になりました。

ただし、ナースキャップそのものが院内感染を引き起こしたと、因果関係まで示されたわけではありません。「不衛生だから廃止された」とだけ説明するのは正確ではないでしょう。

ほかにも、費用や実用性、患者さんとの関係に与える印象、女性だけが着用することへの疑問など、さまざまな論点がありました。

私自身も、臨床で働きながら、ナースキャップが徐々に廃止されていく時代を経験しました。象徴として親しんだ一方で、なくなってみれば、動く仕事にはそのほうが自然だったとも感じます。

ところが現在も戴帽式は残っている

臨床現場でナースキャップを見なくなっても、戴帽式まで一斉になくなったわけではありません。2026年9月に学校公式サイトを確認すると、現在もキャップを用いる学校がありました。

男子学生にはキャップではなく、肩へエンブレムを付ける学校もあります。同じ戴帽式でも、その形は学校によって異なります。

「戴帽式」から「宣誓式」へ

暗い場所で両手に包まれた小さなろうそくの灯

キャップを中心にしない式へ変わった学校もあります。大切なのは、「戴帽式を廃止した」と一括りにしないことです。式の名称や内容は、それぞれ違います。

新見公立大学は、従来の戴帽式に代わる式として、2025年度から「看護学実習に向けての宣誓式」を行っています。学生全員が自分たちで考えた誓いの言葉を述べます。

北里大学看護専門学校は、2023年度から「戴帽の会」の名称を「宣誓式」へ変更しました。公式情報から確認できるのは名称変更であり、キャップの不使用までは断定できません。

愛知医科大学看護学部では、2025年6月にキャンドルセレモニーを実施しました。ナイチンゲール像の灯を受け継ぎ、一人ひとりが「私の目指す看護師像」を発表しています。

キャップの代わりにリボンを受け継ぐ学校も

諏訪中央病院看護専門学校の公式記事には、式の変化が詳しく残されています。

同校では、学生自治会が中心となって戴帽式を始めました。その後、ナースキャップの廃止を受け、先輩たちが思いをリボンに込めて後輩へ渡す形に変わりました。現在は、ナイチンゲールの灯を受け取るキャンドルセレモニーとして続いています。

キャップ、リボン、キャンドル。形は違っても、先輩から後輩へ看護への思いを手渡す意味は残っています。

戴帽式への疑問は昔からあった

戴帽式の意味を問い直す議論は、ナースキャップが廃止され始めた時期より前からありました。

1967年の「看護における戴帽の変遷とその背景」では、学制改革や単位履修制のもとで、従来の戴帽式がどのような意味を持つのかが問い直されています。

1970年の「戴帽式の現状と将来への展望」でも、教育制度が変わるなかで、以前と同じ式を続けるべきか検討した経緯が記されています。

つまり、戴帽式は昔から変わらない伝統だったわけではありません。教育のあり方に合わせて、その意味を考え直しながら続いてきた行事でした。

消えたのは「帽子」であって「節目」ではなかった

朝日に向かって続く公園の明るい小道

私は、現在の看護学生にもナースキャップを復活させるべきだと考えているわけではありません。医療現場で使わないものを、式のためだけに残す必要があるのか。そう考える人がいるのも自然です。

それでも、患者さんの前に立つ前に一度立ち止まる時間には、意味があると思います。自分はどんな看護をしたいのか。何を大切にして患者さんと向き合うのか。実習が始まる前に考える機会です。

1980年代の私は、同級生とタイミングを合わせ、ろうそくの火を指で消しました。ナースキャップを戴いて喜んだあと、怒涛の実習へ進みました。

今の学生は、リボンを受け取ったり、自分の目指す看護師像を言葉にしたりしています。ナースキャップはなくなっても、看護を始める前に自分の思いを確かめる時間は、形を変えて受け継がれているのだと思います。

参考資料

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イタドリ
イタドリ
現役訪問看護師|HSP当事者
看護師になって30年以上経ちました。
僻地の有床診療所、地域の中規模病院、大学病院を経て、訪問看護は20年以上になりました。
某大学では学外講師を務めています。
やや敏感な気質を持ちながら、
それでも現場で積み上げてきた経験を活かして、訪問看護の実践知や役立つ情報を発信していきます。
窓の外を眺めるように、在宅ケアとHSPという生き方をひそかに綴るブログです。
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