精神科訪問看護はきつい?現役ナースが語る大変さと、それでも続ける理由
「精神科の訪問看護に興味はある。でも、きつそうで踏み出せない」。利用者さんの家にひとりで入って、症状の話をどう受け止めればいいのだろう。拒否されたら、暴言を受けたら、私はもたないのではないか。求人を開いては閉じる、をくり返している看護師さんもいると思います。
あるいは今まさに精神科の訪問看護をしていて、帰り道に「この対応でよかったのかな」と考え込んでいる方もいるかもしれません。
私は現役の訪問看護師で、今は精神科の訪問看護をしています。看護師歴は30年以上、訪問看護は3か所のステーションを経験し、精神科の訪問看護は10年以上になりました。繊細な性格もあって、きつさを感じる場面はたしかにあります。それでも続けているのは、この仕事にしかない手ごたえがあるからです。
この記事では、精神科訪問看護が「きつい」と言われる理由と、私が実際にきつかった場面を書きます。そのうえで、やりがい・HSP気質との相性・きつさを減らす職場の選び方をまとめます。私の体験に加えて、厚生労働省の実態調査の数字も根拠として添えました。
精神科訪問看護の「きつさ」は、身体の負担より心の使い方にあります
厚生労働省の実態調査によると、精神科の訪問の中心は「活動性・生活リズム」「精神症状」「服薬」の援助でした。点滴や処置より、話を聞いて生活を見る時間が長い仕事です。それなのに「きつい」と言われるのは、心の使い方が独特だからだと感じています。

ひとりで訪問して、ひとりで判断する場面の連続です
訪問看護は、ひとりで訪問して、ひとりで判断する場面の連続です。病棟のように、すぐ隣に相談できる先輩はいません。「今日の話は症状の悪化なのか、いつもの話なのか」。その見立てを、その場で自分がすることになります。
判断そのものより、「合っていたかどうかを確かめる相手がその場にいない」ところが、じわじわ効いてきます。
変化がゆっくりで、「ありがとう」が返ってくるとは限りません
精神科では、親身になって関わっても、報われないと感じることがあります。「ありがとう」と言われるとは限りません。その人の生きてきた困難や感情を共有し、これからの人生を一緒に考えようとする。そうするほど、うまくいかなかったときのダメージは大きくなります。当時の心境はこちらの記事にも書きました。
同じ調査では、利用者さんが訪問看護を使っている期間は「5〜10年」が最も多く、26.2%でした。年単位のお付き合いになるからこそ、一回の訪問で結果を出そうとすると苦しくなります。
調査でも、いちばん難しいのは「本人が困っていない支援」でした
看護師が難しいと感じている支援で最も多かったのは、「未治療・治療中断の方への支援」で81.3%でした。次が「ひきこもりの利用者さんへの支援」の62.5%です。「身体の合併症がある方への支援」は50.0%、「迷惑行為や他害行為で支援を続けにくい方への支援」は46.9%でした。
「暴力がこわい」というイメージの手前に、「本人が困っていないことを、どう支えるか」という悩みがあります。これは私の実感とも、とてもよく重なります。
ドアが開かない日もあります
利用者さんが抑うつ状態になって、訪問してもドアが開かなかったことがあります。そのときはドア越しに会話をして、薬を飲んだことや食事・睡眠を確認しました。「また来週きますね」と伝えて、その日は帰ることにしたんです。翌週は、ドアが開きました。
ドアが開かないこと自体は、失敗ではありません。ドア越しでも確認できることはあり、「また来る」と伝えることが、次につながります。
私が実際にきつかった場面

帰り道に「この対応でよかったのかな」と考え込んでしまう
今でも「この対応でよかったのかな」と帰り道に考え込んでしまうことはよくあります。病棟なら詰所に戻って、誰かに「さっきの、どう思う?」と聞けます。訪問看護は自転車をこぎながら、自分の中だけで答え合わせをすることになります。
そんな私を支えてくれたのは、精神科訪問看護の現場で繰り返し読んできた本でした。「待つのは度胸がいる」という精神科医の言葉に救われました。「なにもしていないと思われるんじゃないか」という感覚が、自分はイヤだったのだと気づけたからです。
腹を据えて見守る姿勢を本から借りて、少しずつ楽になりました。
【実体験】「もうこなくていい」と、事務所に電話が来た日
ある利用者さんから、事務所に電話が来たことがあります。「もうこなくていい」。理由は「相性が合わない」とのことでした。訪問は、そのまま終了になりました。
粘る事務所もあると聞いています。理由が「相性」で結果が「終了」というのは、少し合っていません。訪問看護そのものが要らないと思われたのだろう、と受け止めています。
その電話のあとは訪問していないので、直接の理由は聴けていません。私が利用者さんの気持ちを、きちんと汲めていなかったんだろうな。今もそう思っています。答え合わせができないまま、自分の中に残り続ける。精神科訪問看護のきつさは、こういう形でやってきます。
相談したら責められた職場と、「おかえり」と言ってくれた職場
訪問看護を始めたばかりのころ、ある患者さんから、現在ならセクハラに当たる言動を受けていた時期があります。勇気を出して先輩に相談したところ、返ってきたのは「あなたの対応がよくなかったんじゃないの」という言葉でした。
それ以降、私はその患者さんのことを誰にも相談できなくなりました。つらい訪問を、ひとりで抱え続けることになったんです。
次に移った訪問看護の職場では、事務所に戻ると「おかえり」とみんなが声をかけてくれました。報告書を書きながら「患者さんがこんなふうに言っていてね」と気軽に話せる雰囲気があったんです。やっている仕事は同じ訪問看護なのに、心の消耗のしかたはまったく別ものでした。
受け止めたものをいったん降ろせる場所があるかどうかで、同じ仕事の重さは変わります。
それでも続けている理由|精神科訪問看護のやりがい

ゆっくりの変化を、いちばん近くで見られます
精神科の症状は、すぐには良くなりません。それでも、いつかは症状が落ち着き、その人なりのやりかたで生きていってくれると私は信じています。困難な状況のなかでも、人の回復と希望を支える仕事です。
先ほどの調査では、半年あけて2回、同じ利用者さんの状態を調べています。生活技能は「身辺整理」「規則順守」「会話」など、すべての項目で向上していました。服薬や症状について「相談することが増えた」と答えた方も3割前後いました。
【実体験】2年後に、私の言葉が利用者さんの言葉になって返ってきた
ネガティブなことにとらわれやすい利用者さんに、少しだけ希望が見えるような言葉をかけたことがあります。そのときは、反応がありませんでした。
2年くらいたったころです。利用者さんの口から「○○だものね」と、2年前に私が話したことが、利用者さんご自身の言葉になって出てきました。反応はなくても届いていて、少しずつ育っていたのかもしれません。蒔いた種が育ったようで、うれしかったです。
「共感して支持する姿勢」は、一度身につくと一生ものになります
精神科では、共感することや相手を支持していく姿勢を、時間をかけて身につけていきます。一度身につくと、それは患者さんに向けるときだけのものではなくなります。相手が誰であっても自然とにじみ出てくる、自分のやり方になっていくのです(HSP気質と適職についてはこちら)。
看護学生の実習のとき、精神科の看護師さんに言われた言葉があります。「私は、あなたのような人に看護してほしいと思う」。この言葉は、仕事がつらくなるたびに、私をずいぶんと支えてくれました。
HSP気質の看護師と精神科訪問看護の相性

消耗しやすい点|利用者さんの感情が、そのまま流れ込んでくる
繊細な気質の方は、相手の苦しみをそのまま受け取りやすいところがあります。精神科の訪問では、その苦しみを言葉で受け止める時間が長くなります。家に帰っても心が重い日が続くなら、それは「共感疲労」と呼ばれる状態かもしれません。
研究では、疲れの原因は「共感しすぎ」ではないと指摘されています。相手の苦しみをわかったうえで、少し離れたところから思いやる「立ち位置」を失ったときに疲れてしまうのです。直すのは性格ではなく、立ち位置のほうでした。

活きる点|1対1で、静かな環境で、小さな変化に気づける
利用者さんのお宅には、病棟のようなアラーム音や慌ただしさがありません。基本は1対1で、目の前のひとりにじっくり向き合えます。私自身、訪問看護に移ってから「夕方のぐったりした疲れ」が明らかに減りました(病棟がつらかった体験はこちら)。
「なんとなくいつもと顔色が違う」「ゴミ箱の様子が変だ」「冷蔵庫の食材が減っていない」。こうした細かな気づきが、状態変化の早期発見につながることがあります。
移動時間で、前の訪問の気持ちをいったん降ろします
訪問と訪問のあいだの移動時間は、自分だけの時間です。私は次の訪問先に向かう途中、時間に少し余裕があれば、公園の横で自転車を数分とめて木々や花壇を眺めます。前の訪問で受け止めた気持ちをここでいったん降ろして、次の利用者さんのところへ向かえます。

きつさを減らす職場の選び方|精神科の経験がなくても始められます

精神科の経験がなくても、20時間以上の研修で始められます
「精神科の経験がないから無理」と思っている方へ。精神科訪問看護の報酬(精神科訪問看護基本療養費)を算定するには、看護師側に条件があります。精神科の病棟や外来で1年以上働いた経験があるか、20時間以上の研修を修了していることです。
逆に言えば、研修を修了すれば、精神科の経験がなくても精神科訪問看護に入れます。研修にはオンラインで受けられるものもあります。私自身も、この20時間の研修を受けて精神科の訪問看護に入りました。
面接で聞きたい4つの質問
面接で聞きたい質問は、この4つです。
① 判断に迷ったとき、訪問先から誰に相談できるか(電話・端末での連絡体制)
② 同行訪問の期間と、必要なときに2人で訪問できるか
③ 利用者さんからの暴言やハラスメントがあったとき、事業所はどう対応しているか
④ 1日の訪問件数と、1回の訪問時間の目安
③は、まともな職場なら答えを持っている質問です。
④の目安として、私の今の職場を書いておきます。1日の訪問は5件前後で、1回は30分から60分です。連休の前後は振替の訪問が入るので、7件くらいになることもあります。同行訪問や、2人での訪問もあります。
医師の指示にない処置を、訪問のたびに強く求められた利用者さんがいました。事業所全体で対応に苦慮しましたが、訪問する看護師を調整し、できないことを根気強く説明する形で乗り切りました。ひとりの看護師に抱えさせない仕組みがあるかどうかは、②と③の答えに表れます。ステーション選び全体についてはこちらの記事もあわせてどうぞ。
今しんどい方へ|本で土台をつくる・環境を変えるのも看護のひとつ
今すでに精神科の訪問看護をしていて、しんどい方へ。ひとりで判断する不安を軽くしてくれる3冊を、別の記事にまとめました。

それでも消えないきつさは、あなたの努力不足ではなく、環境からのサインかもしれません。研究でも、共感疲労の大きさは職場のサポート環境で変わることが示されています。眠れない患者さんに部屋の明るさを整えるように、自分の環境を整えることも看護のひとつです。

職場の内部事情は、求人票だけではわかりません。電話が苦手なHSPの私が、連絡の負担が少ない順に5社を比べた記事があります。「精神科がメインのステーション」「同行訪問が長い事業所」と具体的に伝えるときの参考にしてください。

まとめ|きつさの正体は「ひとりで答え合わせをすること」でした

精神科訪問看護のきつさは、身体の負担より、ひとりで判断してひとりで答え合わせをする心の使い方にあります。一方で、年単位のゆっくりした変化をいちばん近くで見られるのは、この仕事だけの手ごたえです。
きつさを減らす鍵は、あなたの性格を変えることではありません。答え合わせができる相手がいる職場を選ぶことです。「おかえり」と言ってくれる事務所は、たしかにあります。
明日からの一歩は、ひとつだけで充分です。今日の訪問で気になったことを、ひとつだけ誰かに話してみてください。同僚でも、家族でも、ノートでもかまいません(利用者さんが誰かわかる内容は避けてください)。ひとりで抱えない、その一回が積み重なっていきます。
出典:厚生労働省 令和4年度障害者総合福祉推進事業「地域における支援ニーズの高い者に対する精神科訪問看護の実態調査 報告書」(2023年3月・訪問看護ステーション25施設と精神科医療機関7施設の施設票、利用者票183件)/厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」精神科訪問看護基本療養費の施設基準
